要点と過去問10年分
一級建築士試験 学科Ⅳ(建築構造)の No.1・No.3・No.4 で出題される「全塑性モーメント・塑性解析」について、全塑性状態の軸力と曲げモーメント、仮想仕事法による崩壊荷重を要点にまとめ、令和8年〜平成29年の過去問を図つきで解説します。

全塑性モーメント・塑性解析の出題の傾向(令和8年〜平成29年)
塑性解析(崩壊荷重・崩壊メカニズム)は、10年のうち6年が No.3 か No.4 に出ています。全塑性状態の断面の軸力と曲げモーメント(No.1)が3年です(令和元年 No.1 の中立軸の位置は「断面の性質・応力度・力のつり合い」の記事)。
No.1・No.3・No.4 に出題(10年のうち7年・9問)。この記事では、9問を問題ごとに解説しています。
過去問の問題文と選択肢は、公益財団法人 建築技術教育普及センターが公表している一級建築士試験の問題から、解説に必要な範囲で引用しています(各選択肢の枠の右下に出典)。正答は、同センターの「合格基準点等(正答肢)」と照らし合わせています。
「要点」は、今の建築基準法・告示や日本建築学会の規準などでまとめています。過去問の解説は、年度別の記事と同じく出題当時の基準によります。その後の改定で答えが変わる選択肢には「🔶 現在の基準では」の枠を付けています。
🔥 全塑性状態の軸力と曲げモーメント
📖 全塑性状態の求め方
全塑性状態では、断面の全体が降伏応力度σyに達し、圧縮側も引張側も大きさσyの長方形の分布になります。軸力と曲げモーメントは、面積で計算できます。
| 求めるもの | 考え方 |
|---|---|
| 軸力N | N=(圧縮側の面積-引張側の面積)×σy |
| 曲げモーメントM(図心まわり) | 各部分の「面積×σy×図心からの距離」を、圧縮側も引張側も同じ向きのモーメントとして足す |
| 図心をはさんで対称な部分 | 同じ向きの応力度(圧縮だけ、又は引張りだけ)が図心をはさんで対称に広がる部分は、モーメントが打ち消し合って0になる |
| 柱脚の水平荷重 | 柱脚の曲げモーメントMは、M=Q×h(頂部の水平荷重×高さ)から Q=M/h |
✏️ 過去問:全塑性状態の軸力と曲げモーメント(10年で3問)
応力度分布の図から、圧縮側と引張側の面積を書き出してから「解答・解説を見る」を開いてください。
平成30年 No.1全塑性状態の中空長方形断面に作用する軸力と曲げモーメント
図-1のような等質な材料からなる断面が、図-2に示す垂直応力度分布となって全塑性状態に達している。このとき、断面の図心に作用する圧縮軸力Nと曲げモーメントMとの組合せとして、正しいものは、次のうちどれか。ただし、降伏応力度はσyとする。
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N M 1. 4a²σy 10a³σy 2. 4a²σy 20a³σy 3. 8a²σy 10a³σy 4. 8a²σy 20a³σy 出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「平成30年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.1
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断面は、外形が幅4a・せい6a、厚さaの中空の長方形。図-2より、上から5aが圧縮、下のaが引張り(中立軸は下のフランジの上面)。
・圧縮側:両側のウェブ 2a×4a=8a²と上のフランジ4a²で、12a²
・引張側:下のフランジ 4a×a=4a²
・N=(12-4)a²×σy=8a²σy
・M(図心まわり):ウェブ(図心から下へ2a〜上へ2a)は図心について対称なので0。上のフランジ(2a〜3a)は 4a×(9a²-4a²)/2=10a³、引張側の下のフランジも同じ向きに10a³。M=20a³σy
令和4年 No.1全塑性状態の中空長方形断面に作用する軸力と曲げモーメント
図-1のような等質な材料からなる部材の断面が、図-2に示す垂直応力度分布となって全塑性状態に達している。このとき、断面の図心に作用する圧縮軸力Nと曲げモーメントMとの組合せとして、正しいものは、次のうちどれか。ただし、降伏応力度はσyとする。
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N M 1. 8a²σy 42a³σy 2. 8a²σy 52a³σy 3. 12a²σy 42a³σy 4. 12a²σy 52a³σy 出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和4年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.1
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図-2より、上から6aが圧縮、下の2aが引張りで、中立軸は図心(中央)より2a下にある。断面は、幅6a・厚さaのフランジと、厚さa×2のウェブ(幅2a)でできている。
・圧縮側の面積:ウェブ 2a×5a=10a²、上のフランジ 6a²、合計16a²
・引張側の面積:下のフランジ 6a²、ウェブ 2a×a=2a²、合計8a²
・N=(16-8)a²×σy=8a²σy
・M(図心まわり):圧縮側は、ウェブ(図心から下へ2a〜上へ3a)が 2a×(9a²-4a²)/2=5a³、上のフランジ(3a〜4a)が 6a×(16a²-9a²)/2=21a³で、合計26a³。引張側も、下のフランジ21a³+ウェブ5a³=26a³ で同じ向きのモーメント。M=(26+26)a³×σy=52a³σy
令和2年 No.1全塑性状態の H形断面の柱脚に作用する鉛直荷重と水平荷重
図-1のように、脚部で固定された柱の頂部に鉛直荷重N及び水平荷重Qが作用している。柱の断面形状は図-2に示すとおりであり、N及びQは断面の図心に作用しているものとする。柱脚部断面の垂直応力度分布が図-3のような全塑性状態に達している場合のNとQとの組合せとして、正しいものは、次のうちどれか。ただし、柱は等質等断面とし、降伏応力度はσyとする。
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鉛直荷重 N 水平荷重 Q 1. 2a²σy 9a³σy/h 2. 2a²σy 18a³σy/h 3. 4a²σy 9a³σy/h 4. 4a²σy 18a³σy/h 出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和2年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.1
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断面は、左右の幅a・せい3aの部分と、中央の幅2a・せいaの部分でできている。図-3より、左端からaが引張り、残りの3aが圧縮。
・引張側:左の部分 a×3a=3a²
・圧縮側:中央の部分 2a×a=2a²と右の部分3a²で、5a²
・N=(5-3)a²×σy=2a²σy(圧縮)
・柱脚の曲げモーメント(図心まわり):中央の部分は図心上にあるので0。左右の部分(3a²ずつ)は図心から1.5aの位置で、M=3a²×1.5a×2×σy=9a³σy
・M=Qh より、Q=9a³σy/h
💥 崩壊荷重・崩壊メカニズム
📖 崩壊荷重の求め方
崩壊荷重は、崩壊機構を決めて、仮想仕事の式(外力のした仕事=塑性ヒンジでの内力の仕事)で求めます。
| 考え方 | 式・ポイント |
|---|---|
| 塑性ヒンジの位置 | 部材の途中に荷重がなければ、曲げモーメントが最大になる部材の端(隅)にできる。柱と梁が接する所では、全塑性モーメントの小さいほうにできる |
| 仮想仕事の式 | P×(荷重点の変位)=Σ(Mp×ヒンジの回転角) |
| 柱の高さが違うラーメン | 梁が水平にδ動くと、柱の回転角は δ/h(短い柱ほど大きく回る) |
| 崩壊時の梁のせん断力 | (両端の全塑性モーメントの和)÷スパン |
| 崩壊時の柱の軸力・鉛直反力 | 上にある梁のせん断力を足す。山形ラーメンなど形が複雑なときは、全体のつり合いから反力を出す |
| 2層ラーメンの柱のせん断力 | 層せん断力を左右の柱が等しく負担する(柱頭・柱脚ともMpなら(Mp+Mp)÷階高)。1階全体の層せん断力と取り違えない |
✏️ 過去問:崩壊荷重(仮想仕事法)(10年で4問)
ヒンジの位置と回転角を図に書き込み、仮想仕事の式を立ててから開いてください。
令和2年 No.4柱の長さが異なるラーメンの崩壊荷重(仮想仕事法)
図-1のような水平荷重Pを受けるラーメンにおいて、Pを増大させたとき、そのラーメンは、図-2のような崩壊機構を示した。ラーメンの崩壊荷重Puの値として、正しいものは、次のうちどれか。ただし、柱、梁の全塑性モーメントの値は、それぞれ400kN・m、200kN・mとする。
図を押すと大きく表示します 1200kN2300kN3400kN4600kN出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和2年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.4
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図-2の崩壊機構では、左の柱脚(400kN・m)・左の梁端(200kN・m)・右の梁端(200kN・m)・右の柱脚(400kN・m)に塑性ヒンジができる。梁が水平にδ動くとき、左の柱(3m)の回転角はδ/3、右の柱(6m)はδ/6。
・仮想仕事の式:Pu×δ=(400+200)×δ/3+(200+400)×δ/6=(200+100)δ
・Pu=300kN
令和5年 No.3柱の高さが異なるラーメンの崩壊荷重(仮想仕事法)
図-1のような水平荷重Pを受けるラーメンにおいて、Pを増大させたとき、そのラーメンは、図-2のような崩壊機構を示した。ラーメンの崩壊荷重Puの値として、正しいものは、次のうちどれか。ただし、柱、梁の全塑性モーメントの値は、それぞれ400kN・m、200kN・mとする。
図を押すと大きく表示します 1225kN2300kN3375kN4500kN出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和5年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.3
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図-2の崩壊機構では、左の柱脚・左の梁端・右の梁端・右の柱脚に塑性ヒンジができる(柱と梁の接合部では、全塑性モーメントの小さい梁の端にヒンジができる)。
梁が水平にδ動くとき、左の柱(高さ8m)の回転角はδ/8、右の柱(高さ2m)の回転角はδ/2。
仮想仕事の式:Pu×δ=400×δ/8+200×δ/8+200×δ/2+400×δ/2
=(50+25+100+200)δ → Pu=375kN
令和7年 No.3全塑性モーメントの異なる柱・梁からなる閉じたラーメンの崩壊荷重
図のようなラーメンに作用する水平荷重Pを増大させたとき、ラーメンの崩壊荷重の値として、正しいものは、次のうちどれか。ただし、柱、梁の全塑性モーメントの値は図中に示す値とする。
図を押すと大きく表示します 1100kN2200kN3300kN4450kN出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和7年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.3
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柱・梁に途中の荷重がないので、曲げモーメントは4つの隅で最大になる。崩壊機構は、4つの隅に塑性ヒンジができ、柱が回転して上の梁が横に動く形。各隅のヒンジは、そこで接する柱と梁のうち、全塑性モーメントの小さいほうにできる。
・左上:600と200 → 200kN・m ・右上:200と100 → 100kN・m
・右下:100と400 → 100kN・m ・左下:600と400 → 400kN・m
柱の回転角をθとすると、仮想仕事の式は、外力の仕事 P×4θ=内力の仕事 (200+100+100+400)θ=800θ
よって P=800/4=200kN。
令和4年 No.4梁端部に塑性ヒンジを生じる山形ラーメンの崩壊荷重・柱の軸力・頂部の曲げモーメント・鉛直反力
図-1のような水平荷重Pを受ける山形ラーメンにおいて、Pを増大させたとき、その山形ラーメンは、図-2のような梁端部に塑性ヒンジを生じる崩壊機構を示した。山形ラーメンの崩壊荷重がPuであるとき、最も不適当なものは、次のうちどれか。ただし、梁の全塑性モーメントはMpとする。
図を押すと大きく表示します 1水平荷重Puは2Mp/lである。2柱ABの軸力はMp/lの引張力である。3C点の曲げモーメントは0である。4E点の鉛直反力VEはMp/lである。出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和4年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.4
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崩壊機構では、柱が回転角θで傾き、梁の部分(B〜C〜D)は横に平行移動する。B・D のヒンジの回転角はどちらもθ。仮想仕事の式 Pu×lθ=Mpθ×2 から、Pu=2Mp/l。
全体のつり合い(A点まわり):Pu×l=VE×2l → VE=Mp/l(上向き)。A点の鉛直反力は下向きにMp/lなので、柱ABの軸力はMp/lの引張力。
D点のヒンジの曲げモーメントMpから、E点の水平反力は Mp/l(柱の高さl)。C点(E点から水平にl・高さ7l/4)の曲げモーメントは、VE×l-HE×7l/4=Mp-7Mp/4 で、大きさは3Mp/4。0ではない。
選択肢2で求めたとおり、VE=Mp/l(Pu/2)。
✏️ 過去問:2層ラーメンの崩壊メカニズム(10年で2問)
梁のせん断力 → 鉛直反力 → 仮想仕事で荷重 → 1階の柱のせん断力、の順に確かめます。
平成29年 No.42層ラーメンの崩壊メカニズム(梁のせん断力・鉛直反力・水平荷重・柱のせん断力)
図は2層のラーメンに水平荷重P及び2Pが作用したときの正しい崩壊メカニズムを示したものである。次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。ただし、最上階梁及び2階梁の全塑性モーメントはそれぞれMp及び2Mpとし、1階柱の柱脚の全塑性モーメントは2Mpとする。
図を押すと大きく表示します 1最上階梁のせん断力Qbは、Mp/lである。2鉛直反力Vは、3Mp/lである。3水平荷重Pは、2Mp/lである。41階右側の柱のせん断力Qcは、6Mp/lである。出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「平成29年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.4
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最上階梁の両端はMpなので、せん断力は (Mp+Mp)÷2l=Mp/l。
右側の柱脚の鉛直反力は、2本の梁のせん断力の和:最上階梁Mp/l+2階梁 (2Mp+2Mp)÷2l=2Mp/l で、3Mp/l。
柱の回転角をθとすると、2階の変位はlθ、最上階は2lθ。仮想仕事の式:P×lθ+2P×2lθ=5Plθ=(Mp×2+2Mp×2+2Mp×2)θ=10Mpθ → P=2Mp/l。
1階の層せん断力は P+2P=3P=6Mp/lで、これを左右の柱が等しく負担するので、1階右側の柱のせん断力は3Mp/l。6Mp/l(1階全体の層せん断力)ではない。
令和3年 No.42層ラーメンの崩壊メカニズム(梁のせん断力・鉛直反力・水平荷重・柱のせん断力)
図は、2層のラーメンに水平荷重Pが作用したときの、正しい崩壊メカニズムを示したものである。次の記述のうち、最も不適当なものはどれか。ただし、柱及び梁の全塑性モーメントはMpとする。
図を押すと大きく表示します 1図のせん断力Qbは、Mp/lである。2図の鉛直反力Vは、2Mp/lである。3図の水平荷重Pは、2Mp/lである。4図のせん断力Qcは、4Mp/lである。出典:公益財団法人 建築技術教育普及センター「令和3年一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)」No.4
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梁の両端に塑性ヒンジ(Mp)ができているので、梁のせん断力は (Mp+Mp)÷2l=Mp/l。
右側の柱脚の鉛直反力は、上の2本の梁のせん断力の和で、Mp/l×2=2Mp/l。
柱の回転角をθとすると、2階の水平変位はlθ、R階は2lθ。仮想仕事の式:P×lθ+P×2lθ=3Plθ=(梁端4か所+柱脚2か所)×Mpθ=6Mpθ → P=2Mp/l。
1階の層せん断力は 2P=4Mp/lで、左右の柱が等しく負担する。1階の柱は柱頭・柱脚ともMpなので、Qc=(Mp+Mp)/l=2Mp/lで2Mp/l。4Mp/l(1階全体の層せん断力)ではない。
まとめ:全塑性モーメント・塑性解析で覚えておくこと
試験の前に見直すことを、章ごとにまとめました。左が覚える数字や言葉、右がその説明です。「要点 ›」を押すと、くわしい説明に戻ります。
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